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Rising Sun Furano
ライジングサン フラノ-

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宿泊の物語は玄関の前から始まる

Rising Sun Furanoを訪れると、すぐに客室へ案内されるわけではありません。

駐車場に車を停める。
階段を下りる。
季節の花を眺める。
暖簾をくぐる。
木の扉を開く。
そして、少し落ち着いた空間を抜けた先で、大きな窓から光が差し込むロビーへたどり着きます。

生川さんが建物づくりの中で大切にしたのは、この流れでした。

「アプローチが欲しかったんです」
そう振り返ります。

生川さんは宿に入るまでの時間もまた、旅の一部だと考えていました。

宿泊の物語が少しずつ始まるような空間。
期待感が高まるような流れ。

そのために、この建物には「入るまでの時間」が丁寧に設計されています。

木の扉を開けた瞬間。
少し暗い空間を抜けた先に、明るいロビーが現れる。
その小さな演出もまた、旅の始まりを感じてもらうための工夫なのです。

一番好きな場所は廊下

建物の中で一番気に入っている場所はどこですか。
そう尋ねると、生川さんは少し考えてから答えてくれました。

「廊下ですね」
少し意外な答えでした。

客室でもない。
ラウンジでもない。
十勝岳連峰を望む窓辺でもありません。

廊下。

けれど実際に歩いてみると、その理由が分かる気がします。

横から差し込む柔らかな光。
静かな空気。
客室へ向かうわずかな時間。

その空間には、どこか非日常の雰囲気があります。

派手なデザインではありません。
けれど、なぜか印象に残る。

生川さんは、この光の使い方と、少し斜めになっている形状をとても気に入っているといいます。

建物には、写真では伝わりにくい魅力があります。
Rising Sun Furanoの廊下も、その一つなのかもしれません。

景色を眺めながら、一杯のお酒を

ラウンジに入ると、まず目を引くのが大きなカウンターです。

窓に向かって設けられた席に腰を下ろすと、その先には上富良野の丘陵風景が広がります。

季節によって表情を変える畑。
遠くまで続く空。
そして、その向こうに見える山々。

まるで景色そのものを味わうための特等席のようです。

実は、生川さんは以前のライジングサンでバーも営んでいました。
外国人スキーヤーが多く訪れていたこともあり、ウイスキーは100本以上。
食事だけではなく、お酒を楽しむ時間も大切にしていたそうです。

だからでしょうか。
このカウンターにも、どこかバーのような心地よさがあります。

グラスを傾けながら景色を眺める。
誰かと語り合う。
あるいは静かに本を読む。

過ごし方は人それぞれです。
テレビがないのも、そのためかもしれません。

目の前にある景色と向き合う時間。
流れていく雲を眺める時間。
そんな何気ないひとときこそが、この場所の贅沢なのだと思います。

東成建設とつくる

設計図が完成しても、建物づくりは終わりません。
むしろ、そこからが本当のスタートです。

図面を形にする施工会社。
現場で汗を流す職人たち。
そして、理想の宿を思い描く施主。

多くの人が関わりながら、一つの建物がつくられていきます。

生川さんは、建物づくりにおいて「チーム」が大切だと話します。

設計士の経験。
施工会社の経験。
職人の感覚。

それぞれの知識や技術が重なり合うことで、建物はより良いものになっていく。
Rising Sun Furanoもまた、そんな多くの人たちの力によって形になりました。

「本当の付き合いはこれからです」

建物が完成した日。
東成建設の常務から掛けられた言葉が、今も印象に残っているそうです。

「本当の付き合いはこれからです」
その言葉に、生川さんは強く心を動かされました。

建物は完成したら終わりではありません。
使い始めてから気付くことがあります。
相談したいことも出てきます。
修繕が必要になることもあります。

だからこそ、本当に大切なのは完成後なのかもしれません。

実際、生川さんは何かあった時に東成建設へ相談すると、きちんと向き合ってくれると話します。

建てて終わりではなく、建ててからが始まり。
その姿勢に安心感を覚えているそうです。

三回建てても納得できない

生川さんにとって、この建物は三つ目の建築でした。

自宅。
前のライジングサン。
そして、Rising Sun Furano。

一般的には、
「家は三回建ててようやく満足できる」
とも言われます。

しかし、生川さんは笑いながら言います。

「全然納得できないですね」

建物ごとに条件が違う。
土地も違う。環境も違う。

だから前回の経験が、そのまま生きるわけではありません。

きっと次に建てても、また新しい課題が見つかるでしょう。
それでも建物をつくり続ける。
より良いものを目指し続ける。

その姿勢は、どこか北海道の開拓者たちの姿にも重なって見えました。

未来を決めるのはお客様

Rising Sun Furanoの未来をどう考えていますか。
そう尋ねると、生川さんは少し意外な答えを返してくれました。

「私が決めることではないと思うんです」
未来を決めるのは、お客様。

時代の変化。求められること。旅のスタイル。

そうしたものに合わせながら、宿も変わっていく。
だからこそ柔軟でありたい。
自分の理想だけを押し付けるのではなく、お客様の声に耳を傾けながら育てていく。

その考え方は、建物づくりにも通じているように感じました。

未来の宿主へ

20代の頃から、いつか宿をやりたいと思っていました。
その思いだけは、ずっと変わりませんでした。

ただ、今振り返ると、あの頃すぐに始めなくて良かったとも思いますし、もう少し早く始めても良かったのかもしれないとも思います。

結局のところ、その時々にしか分からないことがあるのだと思います。

宿を始めて感じるのは、小さな宿には小さな宿の役割があるということです。

大きなホテルにはできないことがあります。
反対に、大きなホテルにしかできないこともあります。

だからこそ、自分たちは何を届けたいのか。
どんな時間を過ごしてほしいのか。

それを考えることが大切なのだと思います。

宿は建物をつくれば完成するものではありません。

来てくださるお客様がいて、そこで時間が流れ、
少しずつ宿になっていくものだと思っています。

もし、いつか宿をやりたいと思っている方がいるなら、
焦らなくてもいいと思います。

でも、その思いだけは大切に持ち続けてほしい。

振り返った時に、その時間もきっと意味のあるものになるのだと思います。

未来の誰かへ

この建物が完成するまで、本当にたくさんの人に力を貸していただきました。

設計士の先生。東成建設の皆さん。職人の皆さん。
そして地域の方々。

建物づくりというと、自分の理想を形にすることのように思われるかもしれません。

もちろん、それも大切です。
けれど実際には、自分一人では何もできません。

プロにはプロの視点があります。
設計士には設計士の考え方があります。
施工会社には施工会社の経験があります。

自分では良いと思っていたことが、実はそうではなかったり、その逆もあります。
だからこそ、多くの人の話を素直に聞くことが大切なのだと思います。
私自身、この建物をつくる中でたくさんのことを学びました。

もっとこうできたかもしれない。
ああしておけば良かったかもしれない。
きっと何回建てても同じことを思うのでしょう。

それでも、一つの場所が形になり、そこに人が集まり、時間が積み重なっていく。
その過程には、建物そのもの以上の価値があるように感じています。

もしこれから自分のお店や場所をつくろうとしている方がいるなら、ぜひ多くの人と出会い、多くの人の話を聞いてみてください。

その積み重ねが、自分だけでは思いつかなかった景色につながっていくと思います。

——Rising Sun Furano
オーナー 生川 淳

お客様

Rising Sun Furano
生川 淳

プロフィール

三重県出身。
20代の頃から宿泊業に関心を持ち、北海道の風土や開拓の歴史に魅力を感じて北海道へ移住。
宿泊施設で経験を積んだ後、2017年に富良野でライジングサンを開業する。
コロナ禍を機に上富良野で新たな宿づくりを決意し、2023年にRising Sun Furanoをオープン。
十勝岳連峰を望む景色と、その景色の中で過ごす時間を大切にしながら、一日三組限定の宿を営んでいる。

建築家

柳雅人建築設計工房
柳 雅人

https://masatoyanagi.jp/

プロフィール

1960年、北海道生まれ。
北海道東海大学芸術工学部建築学科卒業後、設計事務所勤務を経て、1991年に柳雅人建築設計工房を設立。
趣味はバードウォッチング、ドラム、カヌー、写真、散歩。
 

2006年 日事連建築賞 奨励賞「緑の森どうぶつ病院・緑の森の家」
2007年 旭川建築士賞
2008年 日事連建築賞 奨励賞「デンタルケア長浦歯科クリニック」
2011年 第2回北方型住宅賞 奨励賞「十条の家」
2015年 第6回旭川市景観賞 「CoCoDe」
2017年 旭川聖苑 プロポーザル最優秀賞

編集後記

今回の取材を通して印象的だったのは、生川さんが何度も「景色」という言葉を口にしていたことでした。

宿づくりというと、建物のデザインや設備に目が向きがちです。
しかし生川さんが見ていたのは、その先に広がる風景でした。
どこに建てるか。どんな景色が見えるか。どんな時間を過ごしてほしいか。
その問いを積み重ねた先に、この建物があります。

実際にお話を伺いながら感じたのは、Rising Sun Furanoが「宿を建てた」のではなく、「過ごしてほしい時間を形にした場所」だということでした。
暖簾をくぐり、木の扉を開き、光が差し込む廊下を歩く。
その一つひとつに、生川さんが思い描いてきた宿の姿が込められているように感じます。

そして、その思いを支えていたのが設計士の柳先生であり、東成建設の皆さんでした。「本当の付き合いはこれからです」という言葉は、建物だけでなく、この宿そのものにも重なるように思います。

10年後、20年後。
このカウンター席から変わらず十勝岳連峰を眺める人がいて、それぞれの時間を過ごしている。そんな風景が続いていくことを、静かに願っています。

文筆家・ライター/林孝治

DATA

Rising Sun Furano

〒071-0505
北海道空知郡上富良野町西5線北31号

https://rising-sun-furano.com

チェックイン:16:00~
チェックアウト:9:30〜

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