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東川こども歯科クリニック
第1回目の取材先は、北海道・東川町の小児歯科医院。
東川こども歯科クリニック|院長 野呂大輔氏に、
建物が生まれた背景と、日々の働き方、そして未来への思いを伺いました。
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大雪山連峰の麓に町を構える北海道上川郡東川町。
大きくそびえ立つ山々の迫力や、季節ごとに表情を変える自然の豊かさを感じられるこの町は、多くの人が憧れる場所の一つです。
そんな土地に、その景色の延長線上にあるような外観で、まるで一軒の住まいのような安心感を感じさせる歯科クリニックがあります。
扉を開けると、ふんだんに使われた木材とやわらかな光が迎えれくれる。
初めて訪れる人でも緊張が抜けていくような、静かな空気が流れている。
そんな魅力をもつ建物や開業に向けての思いなどをお聞きしました。
つくることが好きだった幼い日の話
子どもの頃から絵を描いたり、ものをつくることが好きだったそうです。お正月には紙粘土で龍を作ったり、感動した風景を絵に残したり。つくることの興味が早くから芽生えていたと話します。
「父がデザインの仕事をしていて、その影響もあったと思います。
芸術の道にも憧れましたが、父を超えるのは簡単じゃないと感じていて…。」
迷いながら進路を模索する中、身近な存在だった叔父が歯科医師だったことも背中を押し、医療×ものづくりの道を選ぶことになりました。

はじまりは、この町から
北海道で生まれ育った野呂さん。
海や山、季節ごとに表情を変える自然が好きで、開業するときは北海道のどこかで、と決めていたそうです。
大学時代、実習で道内のさまざまな地域を訪れたとき、自分の感覚にしっくりきた場所がありました。
——それが、東川町です。
「いつかここで暮らせたら。」
当時は、まだ漠然とした願いだったそうで、その思いは消えずに残り続けていました。
町内の患者さんだけでなく、周辺の地域からも通いやすいこと。ただ便利な場所ではなく、“この医院がここにある理由”が風景として成立する場所。
野呂さんは土地探しの際、こう伝えたと話します。
「少し離れたところで、でも迷わない場所を探してください。」
そうして選ばれた土地は、アクセスもしやすく、東川町らしい風景の延長にある場所でした。
開業から時間が経ったいま、その選択が間違いではなかったことを、患者さんの動きが証明していると話します。
通う人は町内だけにとどまらない。
旭川、名寄、沼田、枝幸、斜里、丸瀬布……。
地図に線を引けば、まるで放射状に伸びるように、この医院へ向かう道が見えてくる。
距離があるにもかかわらず、子どもと家族が“ここを選んで通う”ということ。それは、建物や設備だけでは説明できない、医院としての確かな信頼のあらわれと感じているそうです。
惹かれた建物に気づいた日
北海道各地を車で巡っていた頃、町を通るたびに気になる建物があったそうです。クリニックや本屋——用途は違っても、どこか惹かれる共通点があり、気づけば車を降りて眺めていたと振り返ります。
開業を決め、改めて調べてみると、気になっていた建物の全部が建築家・小西彦仁さんの設計でした。
「個人でお願いできるのか不安でしたが、あの時の体験を正直に伝えて相談しました。」
その結果、小西さんは快く引き受けてくれたといいます。
そして、設計を担当した建築士は、かつて大学病院で診ていた子どもでした。偶然とも必然とも言いきれない縁が、この建物の出発点になった——そう穏やかに語ります。
「ただいま」と言える場所に
「この町に馴染む建物にしたかったんです。」
医院づくりの始まりをそう振り返ります。
東川町の空気に寄り添いながら、できるだけ木を使い、病院らしさを前面に出さない。肩の力が抜けた、やさしい場所にしたいという思いがあったといいます。
その考えを建築家・小西さんに伝えると、
「お家に帰ってくるようなイメージでデザインしますね。」
そう応えてくれたそうです。
言葉より先に、思いをすくい取ってくれたように感じた——そう静かに語ります。
さらに、その世界観に合わせてロゴデザインを手がけたのは、ご本人のお父さま。
「建物って、ひとりでは完成しないんだと実感しました。」
そう話す表情には、携わった人たちの思いが重なって生まれた場所への、静かな誇りがにじみます。

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